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【院生紹介】西浦匡介さん(OSIPP博士前期課程)

【院生紹介】西浦匡介さん(取材時期:2023年2月)


2023年3月に博士前期課程を卒業された西浦匡介さん(中嶋研)へのインタビューを紹介します。西浦さんには、OSIPPへ進学した理由や修士論文で取り組まれた内容、後輩へのメッセージを伺いました。(左写真:ウドバーハジーセンター(アメリカ)に展示されている偵察機SR-71前で撮影)

 

OSIPPへ進学した理由を教えて下さい

私がOSIPPに進学した理由は2つあります。最も大きな理由は、学部生時代から進めていた核不拡散に関する研究を発展させることでした。私が所属していた阪大法学部のゼミでは学部4年次の秋冬学期にゼミ論文を執筆するのですが、その時期になってようやく研究らしい内容に辿り着くことが出来ました。そして、その研究をせっかく良いところまで進められたので、大学院まで進んで研究を発展させ、核兵器への理解を深めたいという思いがありました。OSIPPでは様々なアプローチから国際政治を学ぶことが出来るところが、自分に適していました。2つ目に、OSIPPだと追加的なコストがかからないということがありました。私は内部進学だったので、環境を整えるための労力がかからず、自宅から通学できるという点も非常に魅力的でした。

 

なぜ核兵器や核不拡散問題に興味を持ったのですか?

核問題に興味を持ったのは、核兵器に関する複雑な性質に気付いたことがきっかけです。例えば、核兵器保有の量的側面に目を向けると、核兵器が多すぎると反核団体や平和団体が反発し、逆に少なすぎると(アメリカの場合、アメリカの)同盟国から反発を受けるので、バランスが難しいという問題があります。また、核戦略に注目すると、抑止を成功させるためには相手の核兵器を完全に破壊し、核攻撃を行う(第二撃能力を確保する)ためには自国の核戦力の残存性(生存性)を高める必要がある、といった具合に単純な論理が通用しにくい性質が核兵器保有には内在しており、その点が私の知的好奇心をくすぐりました。

なお、核兵器に関するテーマが色々ある中で核不拡散問題を選んだのは2つの理由からです。それは、Francis Gavinの「抑制戦略論」が私にとって非常に新鮮な議論であったことと、日本の安全保障を考えたときに「なぜ日本は核兵器を持っていないのか」という純粋な疑問を持ったからです。これら2つの要因を組み合わせ、“アメリカの対日核不拡散政策”というテーマにたどり着きました。

 

修士論文で取り組まれたテーマについて教えて下さい

スミソニアン航空宇宙博物館の入り口に展示されている弾道ミサイルSS-20(ソ連)とパーシングⅡ(アメリカ)

修士論文ではアメリカのジョンソン政権(1963〜1969)における対日核不拡散政策を扱いました。ジョンソン政権は核不拡散条約(NPT)を締結し、締約国の核兵器保有を禁じる、という政策を確立した一方で、国務長官のディーン・ラスクはインドや日本の核保有を認めるような発言をしていました。それでは、なぜラスクの考えは政府内に浸透せず、NPTの締結を目指すような政策に至ったのか、そもそもなぜジョンソン政権は日本の核保有を認めなかったのか、といった問いに答えることを研究の目的としました。近年の核不拡散政策研究では、戦後アメリカはなぜ他国の核兵器保有を禁じてきたのか、そもそもアメリカは他国の核兵器保有を禁じてきたのか、といった点が議論される傾向にあります。本研究はそうした研究動向を取り入れることができたと思います。ジョンソン政権は今からおよそ60年前のことですが、現在と共通する部分も多くあり、歴史の連続性を強く感じました。この研究を通じて核兵器をより理解できた点には、非常に満足しています。

なお、私の論文は歴史的なアプローチを採用したため、資料の収集には苦労しました。外交史の場合、アメリカ国務省歴史部の発行するForeign Relations of the United States(FRUS)を基礎的な史料として用いますが、こちらについてはオンラインでほとんど全て公開されており、大変助かりました。しかし、軍縮や軍備管理に関する政府資料については、突然ハードルが上がりました。例えば、ある大学のみに所蔵されているマイクロフィルムの複写物を2万円ほどかけて取り寄せた結果、あまり役に立たなかったということもありました。

 

OSIPPで過ごした2年間はいかがでしたか?

OSIPPでの2年間は非常に新鮮で刺激的な経験を得ることが出来ました。授業面では社会科学色の強い「国際関係論」や、人文科学色の強い「アメリカ外交史」「アメリカ対外関係史」、実務に近い「国際安全保障論」「人間の安全保障」など多種多様な授業を受けることができました。特に「核兵器と国際関係」という授業では、受講生が私一人だったのでマンツーマンで指導していただき、この分野における知見をかなり深めることができました。また、授業以外でもTA(ティーチングアシスタント)や、留学生チューター、高校生への指導、シンポジウムの運営など大学院生ならではのアルバイトができたことも印象強く残っています。OSIPPでは専門が近い院生とはもちろん、そうではない院生ともコミュニケーションを取れるため、多くのことを学ぶことができたと思います。

 

進路や今後の展望について教えてください

修了後は陸上自衛隊に入隊する予定です。私が採用された区分では様々なキャリアが用意されており、場合によっては博士後期課程に進むことが出来ます。米軍では修士号や博士号を持っている士官は珍しくないですし、私も可能であれば働きながら博士後期課程に進み、研究を続けていきたいと考えています。

 

進学を考えている学生へのメッセージをお願いします!

私は、核兵器や核不拡散問題について研究を続けたいとの考えで進学しました。自分がなぜOSIPPに進学したいのか、ということを明確にしておくと、良い学生生活を送れるのではないかと思います。

(OSIPP博士後期課程 平野 歩)

ウドバーハジーセンター(アメリカ)に展示されている偵察機SR-71前で撮影