【院生投稿】小林祐美さん(OSIPP博士前期課程)
2021.8.27
現在、国際公共政策研究科(OSIPP)で国際法の国際責任の分野で論文を書き終え、外務省でSDGs推進のために非常勤職員として働きながら、1.5年の修士生活を終えようとしています。私の修士生活の紹介を通じて、国際法、また副専攻制度についても興味を持っていただければ幸いです。
(写真:右端が著者・科目履修生時代(コロナ禍前)にOSIPP学生と)
OSIPPへの進学経緯と早期修了プログラム
本学法学部国際公共政策学科に所属し国際政治・国際経済について学んでいた頃、国際社会のシステムを理解するうえで国際法の視点が重要であると痛感し、安全保障分野を中心に国際法を本格的に学ぶ機会をうかがっていました。進学先をOSIPPにと考え始めたのは、学部で事例を交えて国際法を興味深く教えてくださっていた真山全教授の大学院での講義である、武力紛争法および国際責任の科目を受けてみたくなった時でした。所属していた国際問題研究会のサークルの先輩数名がOSIPP在籍又は進学予定で、また国際公共政策学科で教える先生方の多くがOSIPP所属であったため、学部2年次には既にOSIPPの雰囲気を理解し、将来OSIPP生となる自分を描いていたように思います。
OSIPP進学にあたっては 博士前期課程早期修了プログラム を利用しました。私の場合、学部3年次よりロシアのサンクトペテルブルク国立大学国際関係学部で交換留学(法学部聴講)をしており、4年次後期にはインドネシアで国連ボランティアをしていたので、この期間の必修科目が履修できておらず、ひいては学部で5年目を過ごさなければならないという状況にありました。学部卒業後の進路については、海外の大学院に出願するには成績が足りないと思われたため、早期修了制度への申請時期である4年次後期に、迷わずこの制度への応募を決めました。
研究内容
ウクライナ東部における私人行為の国家への帰属について研究したかったので、論文では私人行為の国家への帰属基準についての学説を再整理しました。
ウクライナでは2014年のユーロマイダンを契機に親ロシア派政府が政権を失いましたが、国内動乱のなかクリミアがロシアへと併合*され、東部のドネツクでは自称共和国が独立を宣言し、政府との武力紛争が勃発しています。国際社会においてはロシアの国際責任が問われていますが、ICJ(国際司法裁判所)が管轄権を有することなく、ウクライナ領内の反徒の行為がロシアへ帰属するか否かについては様々な基準により論考が出されてきました。
拙論においては、私人行為の帰属基準に注目し、ICJのいう「実効的支配」基準とICTY(旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所)のいう「全般的支配」基準について判例、学説、ILC(国家責任)条文第8条及び第4条のコメンタリーを分析したうえで再整理しました。(*国際法の用語ではなく一般的な意味で用いました。)
副専攻制度について
大阪大学は総合大学という特色を生かし、各大学院が連携しながら開講する副専攻制度を用意しています。私には「社会構造や社会課題を多角的に理解したい」という思いからの研究の本筋がある一方で、かねてからの”宇宙”への関心を捨てられず、工学研究科と基礎工学研究科が主に開講する量子エンジニアリングデザイン研究特別プログラムに応募しました。学部上がりのプログラム生に遅れず講義を理解し、好成績を修める工夫として、学部5年次には吹田キャンパスへ通い物理学の基礎知識を固めつつ、テキストを使って量子力学の基礎を学びました。プログラムの内容以外でも得たものは多く、ほとんどが英語での授業だったので語学力が上がったことはその一つです。また、学びを助けてくれた森川良忠教授のユニークな研究室メンバーと知り合い、連絡を取り合う仲になったことも、私にとって大きな財産となりました。
OSIPPの魅力・学び
国際公共政策というフィールドで様々な学問を気軽に学べること、実に様々な関心を持つ仲間と話ができることは大きな魅力です。また多様な国・地域から優秀な留学生が集まるため、日本にいながら国籍等を問わず多くの友人ができ、レベルの高い議論を英語で行えるという刺激的な点は特色です。OSIPPには気さくな先生方が多く、研究のみならずいろいろな相談に乗ってくださいますし、いつも自身の関心の幅を広げてくださっていると感じています。
OSIPPでは論文指導のレベルも高く、私が当初より論文を書く難しさに何度も直面しつつ、それでも書き上げることができたのは、副指導の和仁健太郎先生よりテーマの絞り方を始めとして完成に向けてかなりのご指導をいただいたお陰だと思います。大学院に在籍し、自分のなかで論理的だと思う基準が上がり、また読みやすいと思う種類の読み物が変わったことを新聞や本、論文を読みながら実感しています。
新型コロナウイルス感染拡大真っ只中のOSIPP生活でしたが、オンラインツールの助けもあって、研究に集中しつつも行動の幅を広げられました。住む場所を問わず、今後もOSIPP仲間と一緒に大いに楽しんでいけたらと思います。